貴船の杜づくり
貴船の杜
貴船は近年の異常気象による倒木の被害を受け、その痛々しい爪痕は未だ大きく残っています。
昨年より貴船神社では霊気あふれるこの地の自然環境を回復すべく、メディアや行政・企業に注目されている『大地の再生』という団体の協力を得て、「植林よりも、まずは神社境内の大地を蘇らせよう」という考えのもと、分断された水脈・地脈をつなぎ直し、今ある大地の力を再び活性させる活動を行っております。
活動において、専門の職人にただ託すのではなく、広くボランティアを募り実施したところ、遠方より数多くの方々にご参加いただきました。まだ一年足らずの活動ですが、回を重ねるごとに大地からそこに息づく樹木が生き生きと蘇っておるのを感じています。
この活動に確信を得まして、この度、貴船地域全体の環境を回復すべく、新たに『貴船の杜づくり協議会』を立ち上げました。立ち上げに当たり、皆様方のご理解、お力添えをいただければ幸いに存じます。
貴船の杜の再生を図り、再びこの杜が氣力生じる根源の地と称された聖地になりゆく様を、皆様と共感できれば何よりの喜びです。
貴船神社 宮司
高井 大輔
活動報告
coming soon
杜の再生
point1
樹勢回復
問題点
新緑も、紅葉も色づきが悪くなる一方で、すぐに落葉してしまう状態。カツラもケヤキもモミジもだんだんと呼吸が弱まっている。
before
カツラ全体の枝の張りが弱く、枯れ枝も見られる。周囲の踏み固めによって、水が浸み込み難く、土の中が乾燥して空気が停滞している状態にある。
after
カツラの外周に空気と水が浸透するための通気浸透水脈を施す。水が浸み込み空気が動き出す為、植物が呼吸しやすい環境へと変化していく。
2023年7月
力強さ、瑞々しさをとりもどした御神木のカツラ
改善point
植物の成長は、水と空気が必要です。昨今の造園・土木工事では、地表をコンクリートやアスファルトなどで固める傾向にあります。土中の空気の出入りが閉ざされると、水も浸透できなくなります。土の中は乾燥し、また人や車両などの圧で固められ、パサパサ・カチコチの状態。これでは植物の根は、息苦しさと、水不足で弱っていきます。根の成長を助ける微生物なども減り、反対に病原菌などが増えていきます。このような悪循環を断ち切る方法のひとつが、縦穴浸透孔と通気浸透水脈(通称「気水脈」)です。
気水脈を入れることで、まず空気が動き出し、空気の動きに促され、水も動き出します。面白いのは、その脈に繋がっている、何もしていない地面の中の空気と水も、引っ張られて動くようになるということです。肥料や薬以上にまず必要なのは、深い呼吸。そして根元を守ってやること。あとは、自然の力に任せると、空気と水の通気浸透作用により、好循環のサイクルが始まります。
気水脈を守る石組と植栽
point2
通気浸透舗装
(ビリ砂利→瓦チップ)
問題点
ビリ砂利の下は細かい泥が堆積し、深い所では20cmの固い層となり、大地に蓋をしたような状態。空気と水循環の大きな妨げとなっている。
before
踏み固められ、水が浸み込まずあちこちに水たまりができる。地面がマスクをされたような状態で、土中の空気循環も悪く、水不足だけではなく、木々の根っこが窒息状態。
after
縦・横方向に空気と水が動き、通気浸透機能がある舗装にする。仕上げは瓦チップだが、その下は浸透層が重なり、段階的に水が浸み込んでいき、微生物や根っこを育む。
改善point
point3
雨庭
問題点
屋根からの雨水が、土中に浸透せずに地表に停滞。樹勢弱化だけではなく、湿気によりカビや苔が付き建物の劣化原因となっている。
before
一般的に使われるU字溝は、雨水を排水する機能は高いが、一方で土中の通気浸透を妨げる。気水脈も切断され、土中の空気と水の循環不良を起こす原因ともなる。
after
U字溝に穴を開け、通気浸透を促したり、時には撤去して、替わりに雨落ち側溝を施工する。雨水が浸透し、土中の空気と水の循環を良好にする雨庭となる。
改善point
貴船渓谷の保全・改善・再生
生い茂る木々の瑞々しさ、谷に満ちる霊気、燃え立つような紅葉の錦、雪の静寂に佇む御神木、京都市内であるにも関わらずそのような仙境に鎮座する貴船神社に魅了され、国内だけではなく海外からも多くの参拝者が訪れる。ところが、近年境内の樹勢が衰えていくという症状に頭を悩ませていた神社関係者にとって、2022年7月から2023年4月までの間に7回の環境再生工事を行った効果は、地域の方たちにも喜んでいただけるものとなった。
樹勢回復はもちろん境内の水たまり解消として、行政でも注目を集めている雨庭の施工、洛北の四季を楽しませてくれる草花などの植栽、道路斜面の安定化など、大地の再生メンバーで行った工事は環境再生視点だけではなく、そこに暮らす人々や息づく生物がより健やかで幸せになってほしいという想いがカタチになったものである。
東京の高尾山、京都の貴船、大阪の箕面は日本の代表的な昆虫採集地とされてきた。自然環境が保たれていた時代には、植物や昆虫の種類や数も大変豊かであった。ここ40~50年の間に山と川の間に走る道は拡張・舗装され、山肌は杉の植林で埋められ、渓谷に車と人が異常に増加した影響は、確実にこの流域の生物多様性減少の原因となっている。貴船にはこの土地特有の「キフネダイオウ」という野草や「スギタニルリシジミ」という蝶なども生息する。
自然豊かな日本には貴船のように自然環境と人々の生活、そして地域の経済活動が直結している地域が沢山ある。そのような場所にとって、貴船が先駆者として、「貴船の杜づくり協議会」を設立し、生物多様性推進事業や貴船渓谷の保全・改善・再生を多目的に行っていく意義は大きい。貴船神社における大地の再生活動、その効果を貴船渓谷全体に広げるため、地域主体の活動が始まろうとしている。
ワークショップに参加された方たちと共に、
気づきや感想をシェアする時間も大切にしている。
ザラ谷の様子(2022年7月)。倒木が放置され、
雨が降る度に土砂が流出している。
大地の再生によって環境再生工事が行われたのは、まだ本宮と中宮に限られ、貴船神社始原の聖地である奥宮、樹齢千年を越える「相生杉」など多くの大木、そして思ひ川の上流に位置する風倒木が放置されたザラ谷の環境再生工事は今後の課題として残っている。
これまでも大地の再生工事は、一般参加者を募るワークショップ形式として行うことにより、多くの方々のご協力を得てきた。この山紫水明の美しさを未来に繋いでいくために、これからも一人でも多くのご支援を賜りたい。1000年後も、人々や生き物が貴船渓谷で豊かに健やかに、そして幸せに息づくことを願って、私たちの挑戦は続く。
ノコガマなどで、風で揺れ曲がる箇所を刈る。風通しを良くしていく事で細根化し草がおとなしくなる。地形を読み取り地面の下の水や空気の動き(水脈)をイメージして草を刈る。
風や光を程よく遮り、通すように行う。 刈りすぎず、 風が揺らす部分を刈る。
建物の周りや敷地の谷地形のようなところに水脈溝を掘る。炭や枝葉をしがらませて組み込み空気と水の動きを保つ。
地上に降った雨水を下水道に排水せずに一時的に貯留して、ゆっくりと地中に浸透させる構造を持った庭空間のこと。
斜面の勾配が急に変わる山裾や、断層線、段丘線などのこと。土中の空気と水が動きやすく、それらの出口でもある。
造園家・矢野智徳氏によって見出された、環境再生の手法。全国に広がる支部を中心に、一般参加者向けのワークショップや講座が各地で開催されており、人と自然が共生する暮らしの考えと場を育む活動をしている。日本では高度経済成長以降、人にとっては一見便利で整備された生活環境となったが、人以外の全ての生物にとってもそう言えるだろうか? 大地の再生では、大地の中(土中)の空気と水の循環が不良になったことで起きている自然状態の劣化に着目して、主に土中の空気と水の循環を促す脈づくりを施すとともに、草木の健康状態に直接働きかける「風の草刈り」や「風の剪定」という自然に習った独自の造園技法を取り入れている。人の営みにより切断された大地の脈を再び繋ぎ、土中の空気と水の循環と大地の呼吸を取り戻すことによって、全ての生物が生きやすい環境づくりを目指している。
貴船神社での活動は、主に大地の再生・関西支部が執り行っています。改善作業だけではなく、学びの場としての交流も大切にしています。
貴船山の再生募金
また、ともに活動してくださる仲間を随時募集しています。ご関心のある方はお気軽にお問い合わせください。
貴船[きふね]は、古より「氣生根(氣の生ずる根源)」と称されるほど生命力に満ちた地。貴船山は賀茂川の源流域でもあり、この地から湧き出る水は、水の神を祀る貴船神社の御神水としても大切にされています。先人たちはこの偉大なる自然に魅了され、その恵みに感謝し敬い、自然にこそ神が宿ると信じて鎮守の杜を守ってきました。
しかし私たち人間は利便性の高い暮らしを追い求めた結果、多くの環境破壊を引き起こし、温暖化や異常気象の影響で森や山に多大なダメージを与えています。
連綿と受け継がれてきたこの鎮守の杜、貴船の山を未来に残すために今、何をすべきか—。
私たちは、今こそ『大地の再生』に取り組むべき時と考えます。大地の呼吸と水の通り道を循環させるための水脈(通気浸透水脈)の整備、土中環境を改善することで、木々の生命力を高める樹勢回復処置、山に光と風を通すための風の草刈り……、それは自然の営みに寄り添いながら必要最小限の介入を行い、本来の自然を取り戻すための取り組みです。
万物の命の源を守るため、貴船の山の在るべき姿を 100年後の未来に残すため、貴船山の再生活動をご支援いただければ幸いです。
イラスト 渡部由佳 (株式会社OSOTO)